社労士・岩壁
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通勤手当は企業が自由に決められる
電車やバスが行きわたっている都心部では、通勤手当は定期代相当額が支給されているケースがほとんどです。
通勤手当は法律上、支給が義務付けられている手当ではありませんので、どのような支給額・サイクルでも企業が自由にルール化できます。
3ヵ月や6ヵ月定期代としてそのサイクルで支給すれば、確かに全体的に費用が抑えられるので良いかもしれません。
しかし次のようなデメリットがあります。
- 通勤手当支給時のキャッシュアウト額が多くなる
- 管理が煩雑になりやすい
- 算定基礎届などで1ヵ月あたりに割り戻す作業が必要
(システムによっては自動計算)
企業が金額的に損を多少しても、管理のしやすさ・分かりやすさから毎月1ヵ月分を支給することが一番楽なことは間違いありません。
ただし前記のとおり通勤手当は企業が自由に決められますから、費用を抑えたいのであれば「6ヵ月定期代を6で割った金額を毎月支給する」というルールにすることも可能です。
一方マイカー通勤は定期代のように統一した金額基準がないため、企業ごとのルールを決める必要が出てきます。
マイカー通勤時の手当計算方法
ガソリン代計算の難しさ
マイカー通勤時はガソリン代相当を通勤手当で支給することになりますが、マイカー通勤は公共交通機関利用の場合と違った難しさがあります。
まず第一に、車種によって燃費が異なるということです。
そういう意味では定期代のように”この額”というものが決めにくくなります。(そして同じ車でも通る道の条件や運転の仕方でも燃費は大きく変わります)
次に、ガソリン代自体が大きく変動するということです。
もちろんガソリン単価が急に上下するわけではありませんが、1~2年すればガソリン単価が以前と全く違ってしまうということも普通にあります。
これらの前提をもとに、どのような計算方法で着地させるのかがポイントです。
手当計算の考え方
計算式
ガソリン代として通勤手当を計算する場合、次の計算式が基本となります。
・1kmあたりのガソリン単価 × 片道km数 × 2(往復)
会社が決めなければならないのは”1kmあたりのガソリン単価”です。
1kmあたりのガソリン単価を算出するためにはまず自動車の燃費=1Lあたり何km走るかを決めなければいけません。(カタログ値や実測値の問題は考えないこととします)
燃費の決定
スポーツカーや高級セダンであれば1Lあたり10kmを下回る車も多くなります。
一方、コンパクトカーであれば15~20kmで走ることもありますが、市街地だと10km台前半ということにもなるでしょう。
従業員の車種にもよりますが、どの燃費なら一般的と言えるのか答えがないため非常に難しい問題です。
従業員の実費負担が出ないように配慮するのであれば、燃費は悪い前提で計算してガソリン代を多少多めに支給する方が良いと考えます。
1Lあたりのガソリン代
ここは経済産業省・資源エネルギー庁で小売価格の調査を定期的に発表しているので、こちらを参考にすると良いでしょう。
参考 石油製品価格調査 1.給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)経済産業省・資源エネルギー庁1kmあたりのガソリン単価
ここでは仮に次の前提のもとで1kmあたりのガソリン単価を算出してみます。
- 燃費…1Lあたり10km
- ガソリン代…1Lあたり140円
- 通勤片道…15km
(1L単価)140円 ÷ (燃費1Lあたり)10km = 1kmあたり14円
(1kmあたり)14円 × 15km × 2(往復) = 1日あたり420円
1ヵ月あたり何日分かを決める
社員の場合は定期代と同様に1ヵ月分の支給額を固定した方が計算が楽になります。
例えば年間休日110日の企業であれば…
(365日 - 110日)÷ 12ヵ月 = 21.25日(月間平均所定日数)
21.25日 × 420円 = 8,925円(1ヵ月の通勤手当)
非課税限度額の違い
マイカー通勤と公共交通機関の違いの一つに、”非課税限度額の違い”があります。
下図がマイカー通勤の場合の非課税枠です。
片道km数(以上~未満) | 非課税上限額(1ヵ月あたり) |
---|---|
~2km | 全額非課税 |
2km~10km | 4,200円 |
10km~15km | 7,100円 |
15km~25km | 12,900円 |
25km~35km | 18,700円 |
35km~45km | 24,400円 |
前記の例では片道15km、1月あたり8,925円の通勤手当でした。
15km以上の場合の非課税額は12,900円なので、この場合は8,925円全額が非課税扱いとなります。
企業によっては「非課税限度額」を支給上限にしていることもありますが、これも一つの考え方です。
その他注意点
マイカー通勤は私用で使う自動車を通勤に使うわけですから、私用部分との兼ね合いが必要になります。
細かい割合を算出して費用を手当に加算することは現実的ではありませんから、通勤手当には次の費用相当も含まれることを盛り込んでおいた方が良いでしょう。
- タイヤ等の消耗品費
- 保険料等の費用
等
前記の計算過程で燃費を仮に10kmとしましたが、この燃費が良い数字になればなるほど通勤手当額は減ります。
ですから消耗品費なども含まれているということで納得感を出すためには、実際のガソリン代よりも通勤手当が多少多めに設定した方が良いと言えます。
同様に1Lあたりのガソリン単価の見直しも半年に1回など、定期見直しをしましょう。
まとめ
- マイカー通勤の場合はガソリン単価と燃費をまず決めること
- 消耗品費や保険料などを補填する意味でも従業員に多少有利に支給すべき
- 公共交通機関の場合と比較して、非課税限度額が細かく決められている