社労士・岩壁
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キャリアアップ助成金の全体概要
厚生労働省が実施する助成金の中で、非正規社員の待遇改善に対して助成されるのがキャリアアップ助成金です。
キャリアアップ助成金には次の7つのコースがあり、待遇改善の様態によって助成金が異なります。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 健康診断制度コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
この記事では有期契約社員等を正規雇用した場合に受給できる正社員化コースについて解説します。
正社員化コース
概要
正社員化コースは契約社員やアルバイト等の非正規社員を多く抱えている企業や、これから正社員登用を積極していこうと思う企業にとっては比較的受給しやすいと言えます。
有期雇用労働者、あるいは無期雇用だけど正規雇用でない従業員を正規雇用等に転換した場合に受給が可能です。
対象者
正社員化コースの対象になる労働者とは次のような方です。
- 有期契約で通算6ヵ月以上雇用されていて、かつ3年以下であること
- 無期契約で6ヵ月以上雇用されていること
- 正規雇用を前提として雇用されていないこと
- 過去3年以内に事業主の関連会社等の社員、役員でなかったこと
- 事業主や取締役の3親等以内の親族ではないこと
等(主要部分のみ抜粋)
また、正社員求人に応募して契約社員として雇用されたような人は助成金の対象者にはなりません。(契約社員としての求人に応募して採用された人でなければいけません)
助成金額
- 有期雇用を正規雇用に転換した場合
1人当たり57万円<72万円>(42万7,500円<54万円>) - 有期雇用を無期雇用に転換した場合
1人当たり28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>) - 無期雇用を正規雇用に転換した場合
1人当たり28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>)
<>内は生産性が向上した場合、()内は中小企業以外の場合。 1年度あたり最大20名まで。
正規雇用にあたっては地域限定や短時間正社員なども正規雇用の対象となります。
また母子家庭・父子家庭の母や父を正規雇用にした場合や派遣社員を正規雇用にした場合などには加算があります。
手続きの流れ
参考:雇用関係各種給付金申請等受付窓口一覧
キャリアアップ計画書
キャリアアップ計画書は契約社員などのキャリアアップに向けた取り組みをどのように進めるのか、企業側がその対象者や目標などをどのように達成していくのかを記載するものです。計画書自体は当初の予定で記載し、事後的に変更を届け出ることも可能です。
キャリアアップ管理者と業務内容
「キャリアアップに取り組む者として必要な知識および経験を有していると認められる者」を言いますが、通常であれば代表者や人事責任者がなることが多いです。
キャリアアップ管理者は複数の事業所のキャリアアップ管理者を兼任することはできず、事業主であっても一つの事業所のみでしか管理者になれません。
業務内容はキャリアアップ実現のための面談やアドバイスなどの取り組みを記載しましょう。
計画期間
期間は3~5年の間で定めます。(5年を超える場合は新規で提出する必要あり)
講じる措置の項目
キャリアアップ助成金の中で希望するコースを選びます。
対象者
どのような労働者を対象とするのかを記載します。
「入社1年以上の契約社員」など。(就業規則の転換規定と整合性を取ってください)
目標
具体的にどのような措置をとって正規雇用等へ転換するのかを記載します。
「対象者に対し正規雇用へ転換するための面接と筆記試験を実施する」など。
計画全体の流れ
キャリアアップ計画提出後の流れを記載します。
- 就業規則の整備を行い正規雇用への転換制度を設け周知を行う
- 対象となる労働者から正規雇用転換希望者を募集する
- 就業規則に沿った転換を実施する
など
就業規則の作成・改定
10人以上の事業場
就業規則の作成・届出が義務なので既に作成済の規定を見直し、正規雇用への転換制度がない場合は新設する必要があります。
転換制度は最低でも次のような内容を定めなければなりません。
- 対象者(キャリアアップ計画書と矛盾しないように)
- 転換日(毎月●月●日付、など)
- 手続き(面接や試験などの実施)
10人未満の事業場
就業規則の作成義務がありませんので、この助成金申請を契機に作成をしなければなりません。(労働基準法上の作成義務がなくても、助成金申請には就業規則が必要です)
作成後、助成金申請にあたっては就業規則がきちんと周知・運用されている証明として「労働者代表の署名捺印による申立書」が必要になりますが、就業規則を労働基準監督署へ届け出ていればその控えでも代用が可能です。
就業規則以外のものでもこれに準じる方法で規定することは可能ですが労働者に周知されている必要があります。
転換規定を定めるタイミング
キャリアアップ助成金(正社員化コース)においては、転換規定がキャリアアップ計画書提出前にすでに存在している場合であっても申請が可能です。
他の助成金では原則として計画期間内に制度に合致した定めを新設・改定する必要があります(すでに制度が存在している場合はNG)が、正社員化コースでは例外的な対応となっています。
正規雇用等への転換
就業規則に定められた転換ルールと異なる手続きで正規雇用等への転換を行うと助成金不支給の原因になります。
また、転換後は賃金が5%以上上昇していることが助成金受給の要件となります。
この5%には次のような実費弁済的な賃金や月により変動する手当などは含みません。
- 残業手当(固定残業代含む)
- 通勤手当
- 皆勤手当
- 歩合給
など。
以前は総額で5%以上アップしていても固定で支給されている諸手当が合理的理由なく低下していたら不支給となっていましたが、2020年4月1日から「基本給と定額諸手当の合計額」が転換前と比較して低下していなければ大丈夫という要件に緩和されました。
例えば支給時期(最低限支給月まで)を規定しなければなりません。「夏期及び冬期」「上期及び下期年」「年●回」といった記載だけでは不十分で、在籍要件や評価期間なども含めて対象者を明確にします。そして基本的に「支給する」という前提のルールが必要です。「支給することがある」という決め方は支給が前提となってはいないので認められません。「正規雇用と非正規雇用でどう待遇が変わったのか」「正規雇用で確実に賃金アップしたと言えるのか」が明確になっていることが重要です。
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転換後6ヵ月の賃金支払い
賃金締日の途中で正規雇用等への転換をした場合は、転換前と後の賃金が混ざった支給月が発生します。
このような場合は転換後の賃金のみで計算された月から6ヵ月です。
転換規定を設ける場合は、転換日は賃金締日に合わせる方が手続き上も給与計算上も分かりやすくて良いと言えます。(例えば給与が末締めの場合は転換日は毎月1日付にする)
支給申請
遅れると支給されませんので忘れず申請を行いましょう。
支給決定までは申請から半年前後かかることが通常であり、非常に時間がかかります。(労働局の混み具合にもよります)
申請後、審査が通れば支給決定です。
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まとめ
- 非正規雇用や有形契約労働者を正規雇用や無期雇用に転換した場合に受給できる
- 正規雇用転換後は賃金が5%以上向上している必要がある
- 長期計画で実施していくため助成金自体はすぐに入るわけではない