役員を複数企業で兼務する場合の社会保険取り扱い

社労士・岩壁

会社の役員になっている方は、複数の企業でも兼務しているケースも珍しくありません。しかし複数企業を兼務して給与(役員報酬)を受けている場合、社会保険料の取り扱いが特殊になり、それぞれの企業の報酬額によって保険料を按分計算しなければなりません。申告漏れがあり保険料が不足していれば遡及納付を命じられることもあります。(従業員の場合も同様です)

社会保険加入条件

役員

役員の場合は出勤日数や時間という概念はありませんから、基本的に社会保険に加入しなければなりません。

ただし次のどちらかに該当する場合は加入義務はありません。

  • 非常勤
  • 役員報酬が0円

正社員

正社員はもちろん加入が必要です。

契約社員・アルバイト

正社員同様にフルタイムであれば加入対象です。

短時間である契約社員とアルバイトについては1週間及び1ヵ月の労働時間が正社員の3/4以上であれば加入しなければなりません。

あくまで「その企業の正社員の労働時間」が基準であり、法定労働時間である週40時間が基準ではありません。(誤解が多いポイントです)

MEMO
正社員の週所定労働時間が35時間(1日7時間)の場合 ⇒ 週26時間15分以上で加入対象

一部大企業の加入基準の例外として、 以下の条件全てに当てはまる場合は正社員の3/4以上でなくても社会保険に加入しなければなりません。

  • 所定労働時間が週20時間以上
  • 月額賃金88,000円以上(残業代、通勤手当、賞与などを除く)
  • 1年以上雇用の見込みがある
  • 学生でない
  • 社会保険加入者数が501人以上の企業に勤務
    (または500人以下でも労使合意がされている企業に勤務)
参考 社会保険の適用拡大厚生労働省

短時間正社員

昨今は正社員であっても短時間勤務制度を設けている会社も増えましたが、短時間正社員であっても次の要件を満たす場合は社会保険に加入することになります。(庁保険発第0630001号)

  1. 労働契約や就業規則等に短時間正社員の規定がある
  2. 期間の定めのない労働契約
  3. 給与規程等で時間当たりの基本給や賞与等の算定方法が正社員と同じであり、就労実態も当該規程に則したものとなっている

短時間正社員の場合は、単純に時間が足りないから加入させなくても良いという考えはできません。

制度として上記に該当するような正社員であれば時間が短くても加入させる必要があります。

必要な届出

被保険者所属選択・二以上事業所勤務届

複数の企業で役員報酬や給与を受ける場合は被保険者所属選択・二以上事業所勤務届の提出が必要です。

この届出には2つの意味があります。

  • メインの保険者(健康保険組合)や事務取り扱い年金事務所を決める
  • 全ての役員報酬や給与を合算して保険料を算出する

この届出によって自分がメインで所属する企業を決定し、対象となる役員報酬や給与を全て申告することになります。

参考 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き日本年金機構
注意
届出が必要なのはあくまでも社会保険加入条件を満たす企業です。2社で勤務していても一方が社会保険加入条件を満たさない場合は、メインでない方の企業の届出は必要ありません。

届出が不要なケース

役員の場合

役員の場合は勤務日数や時間に関係なく社会保険加入対象になりますが、以下のどちらかに当てはまる場合は加入が不要です。

  • 非常勤
  • 役員報酬0円

なお代表取締役は(建前上は)非常勤という取り扱いはできません。

代表取締役で届出不要なのは役員報酬が0円の場合のみで、役員報酬を受けている場合は届出対象です。

従業員の場合

複数の企業で勤務していても加入条件を満たさない企業での届出は不要です。

通常は正社員の3/4以上が加入条件になるため、本職で正社員をやりながら副業アルバイトでもその企業の正社員の3/4以上働くことは考えにくいです。

ですから、本業の正社員のみ加入していれば基本は問題ありません。

ただし次のようなケースでは届出が必要です。

  • 本職が正社員、副業で会社経営(代表取締役)をしていて役員報酬を得てる

会社員の場合は他で役員に就任しているような状況で届出が必要になるケースがあるためご注意ください。

保険料の納付方法

事業所ごとに按分請求

全ての企業で得ている役員報酬や給与を届け出たら保険料が、その合計金額をもとに保険料が計算されます。

算出された保険料を給与額の割合に応じてそれぞれの企業に請求がされることとなります。

なお複数企業兼務の場合で企業同士の管轄する年金事務所が異なる場合、どこの年金事務所が社会保険事務を取り扱うのかを決める必要があります。

ここで決められた社会保険取扱担当の年金事務所が請求や算定基礎届などの事務を一括して行うことになります。

Xさんが下記2企業で役員を兼務し、社会保険取り扱い担当がA社を管轄する品川年金事務所の場合。
A企業…東京都品川区に所在(管轄は品川年金事務所)
B企業…東京都目黒区に所在(管轄は目黒年金事務所)

算定基礎届等の事務書類は品川年金事務所からB企業へ送られる。
B社はXさん分の書類は品川年金事務所へ送付する。

(※)2020年2月より「選択した年金事務所を管轄する事務センター」への届出で全国一本化されます。上記例では品川年金事務所への届出ではなく、品川年金事務所を管轄する日本年金機構東京広域事務センターへの届出となります。

計算例

分かりやすく厚生年金のみの例で試算します。

A社 役員報酬500,000円
B社 役員報酬300,000円

まず保険料を算出するための標準報酬月額を決めます。(標準報酬月額とは保険料を算出するための給与ランクのようなものです)

500,000円+300,000円=800,000円

800,000円の場合は標準報酬月額は620,000円になり、保険料は113,460円です。(個人負担・会社負担の合計。2019年4月現在)

この113,460円を役員報酬の割合で按分。
A社 113,460円×500,000円/800,000円=70,912.5円
B社 113,460円×300,000円/800,000円=42,547.5円

給与控除は会社と折半のため、上記の半分を控除します。

なお全額会社負担の子ども・子育て拠出金は省略していますが基本の計算方法は同じです。

注意
年金事務所から保険料決定の通知があった場合、按分割合の根拠として他社の役員報酬額も記載されます。特に会社員の場合は他社分の給与額を知られることになりますのでご承知おきください。

届出以後の手続き

算定基礎届(定時決定)

算定基礎届はそれぞれの企業で提出します。

年金機構で保険料算出が完了した後、それぞれの企業に保険料が通知がされます。

MEMO
算定基礎届とは4・5・6月に支払われた給与額の平均を算出して、9月分から保険料を改定すること。

月額変更届(随時改定)

随時改定は基本的に標準報酬月額が2等級以上の差が出た場合に必要ですが、2等級の差が出なければ月額変更届の提出は必要ありません。

しかし複数企業での役員報酬額を合算して保険料を計算している場合は、2等級の差が出なくても提出してください。

理由は保険料の按分割合が変わるからです。

保険料そのものが変わらなくても、企業への請求割合を変更しなければなりません。

MEMO
随時改定とは、基本給などの変更があり一定の条件に該当した場合に保険料を改定すること。

まとめ

  • 社会保険加入条件を満たしている企業が複数ある場合は届出が必要
  • 役員報酬額を合計して保険料を算出し、役員報酬割合に応じて保険料が按分される
  • 非常勤または役員報酬0円の場合は届出不要
  • 代表取締役は非常勤扱いが不可のため、役員報酬0円の場合以外は届出が必要