社労士・岩壁
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残業代(割増賃金)支払いの義務
労働基準法の決まり
残業代の根拠は労働基準法第37条に定められている割増賃金です。
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(以下省略)
労働基準法第37条
このような法の定めがあるにも関わらず、世の中の管理職の大半には残業代が支払われていないのはなぜでしょうか?
それは同じ労働基準法に、次のような人には割増賃金の対象外にする規定があるからです。
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
労働基準法第41条
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
この規定を根拠に管理職者には残業代を支払わないとしている企業が多く存在しています。
しかし労働基準法第41条に規定されている“監督若しくは管理の地位にある者”と一般企業の“管理職”は同じものではありません。企業内でどのような肩書か、ではなく、実態で判断されます。
未払い残業代の時効
未払い残業代を含む賃金の時効は従来は2年でしたが、2020年4月より当面の間は3年となりました。(※退職金は5年)
もし争いの結果、残業代の支払う必要があると判断されれば、最長3年間に遡って残業代を支払う必要があります。
金額の算定においては企業ごとの給与形態や資料に基づくため確定金額は言えませんが、一人数百万円単位になる可能性も否定できません。
管理職と管理監督者の違い
管理職の定義
管理職は名称も含めて企業ごとに決めるものです。
取締役や監査役などと異なり、必ず部長や課長といった役職者を置かなければならないという決まりはありません。
どのような呼び名をするのかも含めて企業が独自に決める、ただの社内呼称・立場にすぎません。
管理監督者の定義
一方で、労働基準法第41条で規定している監督若しくは管理の地位にある者は、管理職ではなく管理監督者と呼ばれます。
管理監督者の要件は3つのポイントにまとめられます。
- 経営者と一体的な立場で仕事をしている
- 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
- その地位にふさわしい待遇がなされている
これらの要件に当てはまらない人はたとえ部長や課長という企業ごとの役職がついていても、法律上の管理監督者にはなりません。
管理職と管理監督者の違い
管理職は企業ごとに明確な役職名がついている一方で、管理監督者は役職名ではなく実態です。
部長であっても出退勤に自由がない、経営者と一体的立場でない、ふさわしい待遇を受けていない、というケースでは管理監督者とは言えません。
ですから管理監督者として扱うには極めて厳しい要件をクリアする必要があり、実際の裁判例でも管理監督者性が否定されるケースが大半です。
私見になりますが、一般的に課長クラスで管理監督者扱いは厳しいと思いますし、部長や本部長クラスであっても中間管理職的な扱いであれば同様だと思います。
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管理監督者性が争われたら
もし裁判等で管理監督者性が争われた場合、過去の裁判例からも労働者側が勝つケースが多いと想定されます。
それくらい管理監督者は厳しい要件です。
管理監督者性が争われるのは基本的に残業代請求に付随する場合が多いと言えます。
「ちょっと役職付けたから残業代なしでも大丈夫だろう」という考えは裁判では通じませんし、裁判に負けた場合は遡っての賃金支払いを要しますので、管理監督者の取り扱いについては慎重を要します。
まとめ
- 管理監督者と管理職は同じではない
- 管理監督者のポイント
1:経営者と一体的な立場で仕事をしている
2:出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
3:その地位にふさわしい待遇がなされている - 争いになった場合、管理監督者性が否定される裁判例が多い