社労士・岩壁
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調査担当者
労働基準監督官の仕事
労働基準監督署で企業に対する調査を行う人を労働基準監督官といいます。
労働基準監督官は定期的に、または不定期で企業を回り、法令順守状況などを調査する権限を持っています。
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
労働基準法第101条
2 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
労働基準監督官の仕事は、企業の調査を通じて労働者の就業環境整備や向上を目的としています。
また労働基準監督官は司法警察員であるため、労働基準関係法令違反に対しての調査はもちろんのこと、逮捕する権限も有しています。
調査内容の範囲
労働基準監督官が調査するのは基本的に労働基準法と関係諸法令に関わるものです。
よって労働基準関係法令でない調査、例えば「厚生年金未加入者がいないか?」等については行いません。(厚生年金加入状況調査は年金事務所が担当)
【労働基準監督官に調査と処分の権限が認められている法令】
- 労働基準法(第102条)
- 労働安全衛生法(第92条)
- じん肺法(第43条)
- 家内労働法(第31条)
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法(第14条)
- 作業環境測定法(第40条)
- 最低賃金法(第33条)
- 賃金の支払の確保等に関する法律(第11条)
調査対象の範囲
労働基準監督署の管轄は事業場ごとに決定されていますので、全国に支店がある企業であっても管轄外の事業場は監督しません。
【東京都品川区に本社、神奈川県横浜市西区に支店がある場合】
⇒ 本社を監督するのは品川労働基準監督署
⇒ 支店を監督するのは横浜北労働基準監督署
よって品川労働基準監督署が横浜の支店へ調査に入ることはありません。
調査の種類
定期調査
労働基準監督署が調査する企業を任意に選ぶ調査で、どの企業が選ばれるかは事前には分かりません。
調査方法は2種類です。
- 事業場への立ち入り(臨検監督)
- 労働基準監督署へ呼び出し
特に初めて調査するような場合は前者の臨検監督が多く、原則として予告なく事業場に訪れます。
ただし抜き打ちだからと言って必ず当日に全て対応しなければならないというわけではありません。
責任者や担当者不在の場合は、後日に改めることもできます。(調査目的にもよります)
労働者申告による調査
労働者からの、いわゆる密告(垂れ込み)によって労働基準監督署が立ち入る調査です。
ただし密告があっても、労働基準監督署が必ず立ち入り調査をするとは限りません。
再調査
以前調査に入った企業に対し、その後、法令違反が改善されているかどうかの調査です。
特に重点調査対象となっている企業では3年おきくらいに定期で再調査が行われることがあります。
労災による調査
労災が起こった場合に、その原因究明や再発防止のために行われる調査です。
基本的には大きな労災が起こった場合(目安として休業4日以上)に行われるケースが多いと言えますが、労災があったから調査に必ず入るというわけではありません。
重点調査ポイント
労働基準監督署が調査する主なポイントと提出を要求される資料の例は以下のとおりです。
()内は書類
- 時間外労働(タイムカードや出勤簿、その他勤怠集計のための記録)
- 割増賃金の支払い(賃金台帳)
- 規程関係(就業規則や届出書)
- 健康診断やストレスチェック(結果報告書、個人票)
- 事業に必要な有資格者(産業医や衛生管理者の選任届、資格者名簿)
- 安全衛生委員会(議事録)
- 労使協定の締結や届出(36協定、その他労使協定全般)
- 労災(死傷病報告書)
- 機械等の定期点検(整備記録書の確認)
まずはこれらの内容について法令違反が無いように整備していくことが重要ですが、 その他、会社案内・組織図・労働条件通知書・雇用契約書などの閲覧も求められます。
調査内容は色々あるものの、業種関係なく共通して重点チェックされているのは長時間労働です。
厚生労働省では過重労働撲滅特別対策班、都道府県労働局では過重労働特別監督監理官が任命され、国の施策として長時間労働の削減に力を入れています。
もちろん上記以外でも法令違反があれば是正対象となります。
調査の結果、違反行為があった場合
指導票
指導票は直ちに法令違反となるものではないが運用等に問題があるため改善すべきことに対して出されます。
例えば「 出勤簿とパソコンのログイン&ログオフの記録に乖離があり、その理由を説明できない」といったケースです。
指導があった事項については期限を定めて改善報告をしなければなりません。
是正勧告書
指導票と異なり、法令違反になっていることに対して出され、次のようなケースです。
- 36協定の締結、届出をせずに時間外労働をさせている
- 賃金台帳等の法令で備え付ける義務のある帳簿を備えていない
指導票と同様に期日が定められ、報告をしなければなりません。
改善や報告をしないなど、悪質と判断された場合は送検される可能性もあります。
とにかく誠意をもって対応すること
労働基準監督官も人間ですから、企業としては誠意をもって対応しましょう。
労働基準監督官の心証を害して良いことなど何一つありません。
不備や是正が出てしまった内容に対しては改善する意思があることを伝えて、是正勧告や指導を無視する・期限を守らないといった行為は最悪です。
分からないことがあれば素直に聞く。
期限延長について正当な理由があれば相談する。
労働基準監督官も人間であることを忘れないでください。
調査されやすい企業や業種
企業
定期調査
基本的には運の要素が強くなりますが選ばれやすい傾向はあり、それが都道府県労働局で毎年策定する行政運営方針の重点調査業種に該当する場合です。
申告調査
申告内容や法令違反の度合いなどで調査対象となるかどうかを労働基準監督署で判断します。
申告があれば必ず調査に入るわけではありませんが、調査された場合は申告内容を中心に厳しく調べ上げられます。
再調査
以前法令違反があった企業は数年おきに再調査がされやすくなり、 特に長時間労働で違反行為のあった企業はその傾向にあります。
労災調査
目安として休業4日以上の大きな労災事故があった場合には調査対象となりやすいです。
業種
都道府県労働局には行政運営方針があり、これはその年に重点的に行う施策を記載したものです。
- どのような業種、業界に対して
- どのような指導や監督を行うのか
ここに記載のある業種については必然的に調査対象に選ばれやすくなります。
参考 行政運営方針東京労働局例えば上記2019年度の東京労働局・行政運営方針によれば、次のような業種が制度周知や重点指導の対象になっています。
- 特定技能所属機関
- 自動車運転業(長時間労働の傾向)
- 災害増加傾向や特に重点的に災害防止策を講じるべき業種
⇒ 第3次産業(小売業、社会福祉施設、飲食業)
⇒ 陸上貨物運送事業
⇒ 道路旅客運送事業、陸上貨物運送事業及び新聞販売業
⇒ 建設業、警備業 - 有期労働契約者が多い業種
- 介護離職が多い業種
まとめ
- 調査は4つのきっかけにより行われる
⇒ 定期調査
⇒ 労働者申告による調査
⇒ 再調査
⇒ 労災による調査 - 全業種共通で重点的に調査される内容は主に以下4つ
⇒ 時間外労働
⇒ 賃金(割増賃金、最低賃金)
⇒ 安全・衛生
⇒ 就業規則や労使協定 - 調査があったら誠意をもって対応すること
- 書類の偽造や改ざんは絶対に行わないこと