社労士・岩壁
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懲戒処分
懲戒処分とは
懲戒処分とは企業が従業員に対して行う制裁です。
懲戒処分の内容は企業により若干異なりますが、概ね次のとおりです。
- 戒告(口頭での厳重注意)
- けん責(始末書などを提出させる)
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
従業員が職務命令に反したり企業秩序を乱したりした時に懲戒処分の対象となり、処分の内容は非違行為の程度により決定されます。
中でも懲戒解雇は一番重い処分で、通常、懲戒解雇になった場合は次のような不利益があります。
- 退職金の不支給
- 失業保険の受給に関して自己都合退職と同じ扱い (3か月の受給制限、給付日数など)
- 転職活動に不利
一方、諭旨解雇は本来であれば懲戒解雇になるような事案に対し取られることが多い措置です。
会社が温情的措置で懲戒解雇よりも軽い諭旨解雇にし、懲戒解雇ならば不支給になるはずの退職金を支給して辞めてもらいます。
手続き上は自己都合退職として処理されることも多くあります。
懲戒処分を可能にするには
懲戒処分を可能にするためには、就業規則にその根拠を規定する必要があります。
犯罪でいう罪刑法定主義(犯罪を処罰するには法令にあらかじめ犯罪となる行為と刑罰を定めておく必要があること)と同じ考え方です。
懲戒処分をするのであれば次の内容を定めておかなければなりません。
- 就業規則に懲戒処分となる行為
- 懲戒処分の内容
就業規則に定めがない懲戒処分は無効となります。
私生活上の行為に対する懲戒処分
私生活の時間は原則自由であり懲戒対象にならない
多くの企業の就業規則には犯罪行為に該当した場合は懲戒処分をする規定が盛り込まれています。
この規定が盛り込まれていれば私生活の犯罪でも懲戒処分が可能になりそうですが、現実はそれほど単純ではありません。
従業員の私生活の時間は会社の指揮命令下から外れていますから、個人の時間をどう使おうが基本的には従業員の自由です。
仮に私生活上で犯罪をした従業員がいても、企業への不利益がない場合は制裁をする理由がないので懲戒処分の対象にはなりません。
犯罪の事実と就業規則の規定により直ちに懲戒処分を行えるわけではなく、労働契約法においても企業の権利濫用を抑制する規定があります。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
労働契約法第15条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法第16条
就業時間外の時間の使い方という意味では副業の場合も同様で、 一定のケースを除き、その過ごし方を会社が制限することはできません。
就業規則の副業禁止規定は違法か私生活上の行為でも懲戒処分ができるケース
判例によれば、私生活上の行為であっても、企業の社会的評価に悪影響を及ぼすことが客観的に認められるような場合は懲戒処分が可能としています。
その客観性には、犯罪行為の態様や程度、企業の規模や業態など、様々な要素が考慮されます。
例えば、報道等で企業名が公表されてしまったケースとそうでないケースでは、当然前者の方が企業への悪影響度合は高くなります。
事業内容との関連性
犯罪行為と企業の事業内容の関連性も重要な要素です。
例えば、鉄道会社従業員が電車内の痴漢で有罪判決を受けた件で懲戒解雇を有効とした小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日)があります。
事業内容と犯罪が関連する場合は、企業の社会的信用棄損の程度は高くなると言えます。(なお小田急電鉄事件では前科があったことなども懲戒解雇有効の要素として影響しています)
もし従業員が逮捕されたら
懲戒処分=解雇だけではない
仮に懲戒処分に該当するとしても、ただちに犯罪=懲戒解雇となるわけではなく、懲戒処分に該当するかどうかと処分内容の重さは別です。
事件の背景や会社への影響などを勘案し、最も適切な懲戒処分を下すことになります。
懲戒処分は本人に弁明の機会を与える必要もありますので、慎重に行ってください。
懲戒処分の時期
懲戒処分は会社が下す判断ですから、判決の時期には縛られません。
しかし、もし懲戒処分をするのであれば確定判決後の方が良いでしょう。
判決が確定するまでは何も決まっていない状態ですから、無罪判決になるかもしれません。
懲戒処分後に無罪になった場合などは逆に会社に対して損害賠償・慰謝料請求をされる可能性もあります。
出勤できない期間の対応
通常であれば欠勤、または年次有給休暇を消化させることになるでしょう。
拘留中は意思疎通が難しいことがあるため、どのように対応するのかは企業として慎重に判断してください。
本人から年次有給休暇の申し出がなければ欠勤として処理することは可能です。
そして欠勤が長引けば普通解雇の選択肢も可能性としては出てきます。
しかし判決確定前であれば事後トラブルになりかねませんので、もし面会ができるのであればきちんと本人と話し合ってください。
起訴休職
企業によっては「起訴休職」を設けている場合があります。
しかし逮捕された事実だけで休職を発令できるわけではありません。(全日本空輸事件 東京地判平成11年2月15日)
起訴休職とは本来下記のようなことを避けるためにあります。
- 職場秩序の乱れ
- 企業の社会的信頼の低下
- 企業活動の円滑な遂行の障害
特に身体的拘束を伴っていない場合は、業務に何も支障がない場合もあります。
通常の年次有給休暇の使用で対処可能、かつ企業信用や運営にも支障がないにもかかわらず起訴休職を適用することは問題です。
求職を発令すること自体が従業員に不利益が生じるため、もし有罪になった場合に課されるはずの懲戒処分との均衡がなければなりません。
逮捕や起訴という事実だけでなく、その期間に労務が提供できるのか、会社の信用低下につながるか、企業運営に支障はないか、を総合的に判断する必要があります。
まとめ
- 私生活上の犯罪であっても、ただちに懲戒処分できるわけではない
- 犯罪の態様、会社への影響や社会的信用棄損の程度などを考慮して懲戒処分の可否を決めること
- 本人の弁明も含めて懲戒処分が相当であったとしても、処分内容は慎重を要する