社労士・岩壁
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懲戒処分の定めが必要な理由
就業規則で定める内容には以下の2種類があります。
- 必ず定めなければならない事項(絶対的必要記載事項)
- 定める義務はないが定めをするならば記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)
懲戒処分の関する定めは後者の相対的必要記載事項にあたります。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
労働基準法第89条
(中略)
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
(以下省略)
このように懲戒処分をしようと思うのであれば、その内容をあらかじめ就業規則に定めておかなければいけません。
これは刑法の”罪刑法定主義”にも通じる部分です。
懲戒の種類
一般的な懲戒処分の内容を軽い順から見ていきます。
譴責
従業員に強く反省を促す処分で、通常は始末書などの提出を求めることが定められていることが多いです。
ただし始末書を提出させるタイミングは懲戒処分時です。
懲戒処分をするかどうか判断する前段階においては、始末書ではなく「報告書」などの提出にとどめてください。
似たような処分でもっと軽い“戒告”や”厳重注意”もあります。
従業員に強く反省を促すという点では同じですが、戒告や厳重注意は口頭で済まされるケースが多いです。
懲戒処分として戒告や厳重注意を行うのであれば、その記録を残すようにしましょう。
減給
給与の一部をカットする制裁ですが、減給額には制限があります。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
労働基準法第91条
1回の事案につき平均賃金の0.5日分、複数の事案があっても1ヵ月あたり賃金総額の10%を超えた減給を行うことはできません。
そのような意味では減給処分はそこまで大きな金額を制裁として課すことができる処分ではありません。
出勤停止
従業員に一定期間就労を禁じる処分です。
通常、出勤停止期間は給与支給の対象とはなりませんが、最長でも1ヵ月程度の定めとなっているケースが多いです。(法の上限はありませんが、あまりに長いと他の処分とのバランスが取れず公序良俗に反します)
なお、自宅待機は業務命令として行うため原則として給与支払い対象となり、懲戒処分として行う出勤停止とは異なります。
ただし自宅待機命令であっても「懲戒処分のための調査等で不正や証拠隠滅防止のため緊急性、合理性がある場合」については給与支払いの義務を免れることができる場合もあります。
降格
従業員の役職や等級を引き下げる処分です。
減給では一時的に賃金額を下げるだけですが、降格の場合は今後の賃金額も下げたままにできます。
諭旨解雇
自発的に退職届を提出するよう促す処分で、この諭旨解雇に応じない場合は通常、懲戒解雇処分となります。
懲戒解雇となった場合は退職金不支給などの不利益があるため、会社の恩情として諭旨解雇にとどめるような場合にこの処分が行われます。
懲戒解雇
懲戒処分としては最も重たい処分です。
通常は退職金の全部、または一部が支給されません。
また雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)の取り扱いも会社都合にはならず、自己都合退職と同じ扱いになります。
なお、懲戒解雇の場合であっても解雇予告手当の支給、または30日以上前の予告は必要です。
解雇予告手当を不要にするためには労働基準監督署の認定を受けなければなりません。
その他
以上の他に戒告や昇給停止などもあります。
前述のように懲戒処分は事前に就業規則で定められている必要があります。
例えば昇給停止が懲戒処分として定められていないのに、会社判断で昇給停止処分とすることはできません。(給与規程に沿って個人評価の結果として昇給させないという対応と懲戒処分はまた別です)
運用が大事
もし懲戒処分(特に解雇)で争いになることがあれば、処分内容の合理性はもちろんですが、今までの運用がどれくらい厳格だったのかが1つのポイントになります。
過去に起こった同様の事例での処分内容の程度なども参考とされます。
通常であればもっと軽い処分だったのに「今回だけ懲戒解雇」では、処分そのものが無効とされる可能性もあります。
就業規則は公平性の担保という側面もありますので、過去の事案で企業がどのような対応をしてきたのかを考えた上でバランスの取れた処分が求められます。
就業規則に「書いてあれば良い」というわけではなく、企業には公平な判断と運用が求められます。
まとめ
- 懲戒処分を行うには就業規則に定める必要がある
- 常に公平性を保った運用が何よりも大事