社労士・岩壁
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昇給の定めは義務
就業規則には絶対的必要記載事項という「必ず定める内容」が決められており、その絶対的必要記載事項には昇給も含まれます。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
労働基準法第89条
(中略)
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(以下省略)
企業の就業規則には昇給のみが前提となっている制度が多々見受けられますが、これからは終身雇用・給与右肩上がりの時代ではありません。
企業にとっては従業員の成果に見合った給与を支払えるような柔軟な対応が必要になり、その一環として評価が芳しくない従業員は降給もあり得るでしょう。
降給の定めを置くべき理由
昇給のみの定めの場合は、給与が下がることが前提とされていません。
もし降給の定めがないのに基本給を引き下げ、それが会社経営上のひっ迫した事情等の合理的理由がなかった場合、無効となる可能性が高いと言えます。
よって企業の就業規則や給与規程においては昇給のみならず、人事評価によっては降給もあることを明示する必要があります。
ある程度の規模になれば就業規則や給与規程とは別に、人事評価規程等を設けている企業もあります。
なお、懲戒処分として降格等が定められていれば、その処分として給与や手当額の減額を行うことは可能です。
しかし懲戒処分と人事評価は全く異なるものですから、評価として降給をさせる可能性があるのならばきちんとした定めを置く必要があります。
就業規則変更の注意点
就業規則の不利益変更は争いになれば無効と判断される可能性があるため、もし降給の定めを追加するのであれば合理的な理由が必要です。
どのような理由で変更するのか、その目的(経営状況や今後の経営方針、労働生産性など)をきちんと明確にしてから制度の変更に着手しましょう。
もし給与テーブル等の変更は伴わず降給の定めを新設するだけである場合は、経過措置(制度開始から2年は降給を実施しない等)を置く対応が良いと言えます。
給与テーブルや給与体系そのものを変更する場合は、より慎重を要す対応が求められます。
代替措置や制度の明確性・合理性、従業員代表者や不利益を被る従業員との話し合いのプロセスなど、あらゆる要素を考慮しなければなりません。
まとめ
- 昇給の定めのみでは評価で降給させることが難しい
- 就業規則の不利益変更になるため合理的な理由が必要
- 実際に不利益を被る従業員がいる場合は特に慎重な対応を要する