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前職と同業種で起業する時の注意点

社労士・岩壁

起業をする場合、通常は前職と同業種で起業するケースが多くなりますが、一方で前職と競業関係となります。企業によっては入社時や退社時に競業避止義務を結ぶことも一般的ですが、起業するにあたって競業避止義務はどの程度まで有効なのでしょうか?目的は起業を成功させることですから、そのためには無用なトラブルを避けなければいけません。

職業選択の自由

まず大原則として日本国憲法においては職業選択の自由が認められています。

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

日本国憲法第22条1項

どの職業に就くかは原則論では本人の自由意思ですから、退職後に転職しようが起業しようが、それが同業種であっても本来は縛られるものではありません。

しかしそれでも同業種での起業や転職を阻止する目的で結ばれるのが競業避止義務です。

職業選択の自由があると憲法で規定されている一方で、就業規則や誓約書によって競業避止義務を定めている企業は多くあります。

それではどんな場合に競業避止義務の有効性が出てくるのでしょうか?

競業避止義務

競業避止義務とは

競業避止義務とは次のような概念です。

労働法においては、競業避止義務とは次のような概念である。

・在職中に使用者の不利益になる競業行為(兼職など)を行なうことを禁止すること

・一般の企業において、従業員の退職後に競業他社への就職を禁ずることを定めた、誓約書や就業規則に含まれる特約(競業禁止特約ともいう)

Wikipedia

ここでは後者の退職後の意味で競業避止義務を扱います。

通常は競業避止義務を就業規則に定めるか、(特に退職時に)誓約書と言った形で一筆書かせることが大半です。

なぜ企業は競業避止義務を定めるのでしょうか?

それは単純に自社の利益に損害を及ぼす可能性があるからです。

損害には顧客を奪われることによる直接的な損害だけでなく、従業員を引き抜かれることによる人材流出も含まれます。

競業避止義務は有効か

競業避止義務契約についての裁判例もいくつかありますが、判例のポイントをまとめると下記に集約されます。

判例上、競業避止義務契約の有効性を判断する際にポイントとなるのは、①守るべき企業の利益があるかどうか、①を踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、②従業員の地位、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間や⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか、⑥代償措置が講じられているか、といった項目である。

経済産業省「競業避止義務の有効性について」(抜粋)
  1. 守るべき企業の利益があるか
  2. 従業員の地位
  3. 地域的な限定があるか
  4. 競業避止義務の存続期間
  5. 禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか
  6. 代償措置が講じられているか

これらを総合的に判断すると企業側の守るべき利益を保全するために必要最小限度の制約を従業員に課す範囲であれば競業避止義務は有効であると解されます。

一般社員だった場合と経営の深い情報を知っていた役職者では当然重みが違いますから、競業避止義務契約の代替措置として退職金の上乗せがあった場合なども競業避止義務の合理性を高める理由になります。

競業避止義務契約時にはその内容をよく確認し、適正な競業避止義務契約であるならばその義務は守らなければなりません。

逆に制限が大きすぎる場合は無効になる可能性が高くなります。

また競業避止義務があるかどうかに関わらず、背信的な裏切り行為は不法行為に問われる可能性があり、 この場合は競業避止義務に関係なく訴えられることもあります 。(機密情報漏洩、顧客リスト無断持ち出し、不当な顧客引き抜きなど)

まとめ

  • 企業の守る利益に対して最小限の制約であれば競業避止義務の有効性はある
  • 判断ポイントは6つ
     ①守るべき企業の利益があるか
     ②従業員の地位
     ③地域的な限定があるか
     ④競業避止義務の存続期間
     ⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか
     ⑥代償措置が講じられているか
  • 競業避止義務の有無に関わらず背信的行為は不法行為に問われる可能性あり

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