社労士・岩壁
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給与支払いの原則ルール
給与の支払い方については労働基準法で以下のように定められています。
労働基準法第24条1項
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
「通貨で」支払うことが明確に定められています。
銀行振り込みは通貨払いではないため、労働基準法を厳密に適用すると違反行為になります。
しかし原則通りにすると企業は毎月大量に現金を用意しなければなりませんし、現金を用意する事務的な負担ももちろんありますが盗難・強盗のリスクも非常に高いといえます。
この規定は法が時代に追いついていない条文と言えますが、しかし世の中では給与を銀行振込にしている企業が大半です。
給与振込を銀行にしているケースは全て法違反ということでしょうか?
銀行振込が認められるケース
銀行振込については労働基準法施行規則および行政通達があり、次のような運用が認められています。
使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。
労働基準法施行規則第七条の二1項
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み
・労働者の意思であること(口座指定があったら原則として同意があったものとする)
昭63年1月1日基発1号、平10年9月10日基発第530号、平13年2月2日基発第54号(抜粋要約)
・振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出し得るように行われること
・賃金の口座振込申出書又は同意書の提出
・賃金の口座振込に関する労使協定(第24条1項但書に定める賃金の控除)の締結
・給与明細書の交付
・口座振込み等がなされた賃金は、所定の賃金支払日の午前10時までに払い出しが可能となっていること
・取扱金融機関は、一行、一社に限定せず複数とする等、労働者の便宜に十分配慮して定めること
実務的には給与振込口座申請書を本人からの申出書としているケースが大半です。
また一行、一社に限定しないよう配慮要請がされていますから、自社指定銀行に限るという指定は問題があると言えます。
大金を持ち歩くことは危険を伴うため口座振込自体が問題なる可能性はかなり低いと言えますが、問題になるのは会社が金融機関を強制指定してきた時です。
銀行指定したい場合
経営者にとって経費はできるだけ削減したいという気持ちはありますから、「手数料が安いメインバンクに」という考えは理解はできます。
しかし法の運用で問題がある以上、残念ですが他行への振り込みを認めなければなりません。
三井住友銀行の例を出すと給与振込(EB)の手数料は下記のようになります(2019年5月現在)
・三井住友銀行同一店あて…無料
三井住友銀行
・三井住友銀行本支店あて…108円
・他行あて…324円
もし全員が自社メインバンク同一店の口座を指定した場合、100名企業なら最大で毎月32,400円の手数料が浮くことになります。
どうしても銀行を指定したいなら「支店は違ってもいいから〇〇銀行口座を持っていればそこを給与口座に指定してほしい」と、あくまでお願いであることを柔らかく伝えるのが現実的な対応かと思います。
実際に私が過去に在籍していた企業では給与振込口座申請書にそういった一文を入れていたこともあります。(もちろん強制ではなくお願いベースの話であるという補足はしてあります)
お願いはできても強制はできません。
この際「振込手数料=現金盗難リスクを回避する費用」と思ってください。
まとめ
- 会社側から振込銀行口座を指定することは問題あり
- 強制はせずにあくまでお願いベースで依頼することは可能
- 手数料は事務負担軽減と現金支給の盗難リスク回避費用と思うこと