懲戒解雇した従業員の退職金を全額不支給にできるか?

社労士・岩壁

就業規則には懲戒解雇時に退職金が不支給になる定めはありますか?退職金制度を設けている企業の就業規則には、当たり前のようにこの定めがあります。しかし懲戒解雇を理由として退職金を不支給にすることは、どんなケースでも有効なのでしょうか。実はそうではありません。定めをすること自体は大切ですが、運用・解釈を間違えると争いになります。

退職金の性質

支払い条件が就業規則や退職金規程などで明確に定められている退職金は、労働基準法上の賃金に該当し、支払う義務が発生します。

退職金には3つの性質があると考えられます。

  1. 功労報償
  2. 賃金の後払い
  3. 退職後の生活保障

一般的に退職金は勤続年数が多い方が退職金が多く支払われ、退職時の賃金に対して勤続年数による係数を掛け合わせて算出する方法などがあります。

「自己都合退職よりは会社都合退職の方が支給額が多くなる」「希望退職の場合は退職を上乗せがある」といった調整が入ることが一般的です。

なお、 厚生労働省調査では、退職金制度を設けている企業は全体の80.5%となっています。

参考:厚生労働省平成30年就労条件総合調査 結果の概況(退職給付(一時金・年金)制度 )

社労士・岩壁

従業員数が多い企業ほど制度を設けている割合が高く、退職金自体を社内準備でまかなっています。一方中小企業は“中小企業退職金共済”などの外部制度を利用している割合が高いです。

退職金の支払い根拠

明確な定めとは?

明確な支給条件が定めれていれば退職金は労働基準法上の賃金に該当し、支払う義務が生じます。

ここでいう明確な定めは次のようなものに規定されていることです。(昭和22年09月13日発基第17号)

  • 労働協約
  • 就業規則
  • 労働契約、等

一般的な企業では就業規則や退職金規程などで退職金制度を定めている場合が多いと思われます。

就業規則に定める必要はあるか?

退職金は就業規則の“相対的必要記載事項”に該当します。(労働基準法第89条)

この相対的必要記載事項とは定めを置く場合は必ず記載しなければならない事項です。(記載してもしなくても、どちらでも良いという意味ではありません)

ですから、退職金制度を設ける場合は就業規則にその旨を記載する必要があります。

記載すべき内容は次のとおりです。

  • 適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定、計算及び支払の方法
  • 退職手当の支払の時期

懲戒解雇で退職金を不支給または減額とする場合も、その条件を記載する必要があります。

モデル判例:小田急電鉄事件

モデル判例として、電車内での痴漢行為で複数回有罪判決を受けた従業員が退職金不支給を不服として争った小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日)があります。

結論を言うと本事件では3割の退職金支給が認められました。

判断ポイントは次のとおりです。

  • 給与と勤続年数を基準とする場合は賃金後払い性格が強い
  • 全額不支給にするには永年の勤続の功を抹消する程度の背信行為がある必要
     ⇒職務外の非違行為では、会社名誉の著しく害し、無視できないほどの損害を生じさせる必要がある

退職金の不支給や減額に関する定め自体は基本的に有効ですが、それは功労報償的な意味合いから来ています。

しかし賃金後払いという性質が強くなれば全額不支給が制限されやすくなります。

仮に懲戒解雇で全額不支給が争われた場合、一部支給が認定される可能性があります。

補足
小田急電鉄事件では過去の懲戒解雇で退職金を3割支給していたという先例が考慮されています。

「懲戒解雇=全額不支給」と一律に決めるものではなく次の要素を総合的に勘案し、全額不支給から一部減額まで幅を持たせて内容に応じて都度決定することが望ましいと言えます。

  • 懲戒解雇に至った背景
  • 従業員の今までの勤務態度や評価
  • 会社の過去同様の事例での対応

社内準備以外の退職金制度の場合

中小企業退職金共済や特定退職金共済などに加入しているケースではどうでしょうか?

社内準備の場合は自社の資金ですから、就業規則等に則り自由に運用が可能です。(前記のように争いになった場合に一部支給になる可能性はあります)

外部の制度を利用している場合は、その制度の規約により決定します。

例えば中小企業退職金共済であれば厚生労働大臣の認定が必要です。

参考:中小企業退職金共済8-1-7.懲戒解雇の場合には退職金を減額することができますか?

ただし減額された分が会社に戻されるということはありませんのでご注意ください。

まとめ

  • 懲戒解雇で退職金を不支給または減額する定めは功労報償的な性質、および就業規則の合理性から有効
  • しかし給与と勤続年数を基準とする場合は賃金後払い性質が強くなる
  • 退職金不支給の是非や支給割合の判断は次のような事情により個別に判断される
     ⇒退職金が功労報償的と賃金後払い的、どちらの性格が強いか
     ⇒背信性や会社の実害の程度
     ⇒懲戒解雇になった経緯、従業員の勤務態度、会社の前例